業界のホンネとタテマエ


  • このコーナーは、様々なテーマについて業界の方々に屈託のない意見を述べて頂いたり、 スクウェイブとしてのコメントを徒然なるままに記載することを主旨としている。
  • 従って、このコーナーに記載される内容はスクウェイブの事業説明の補足を意図したものではない。
    またゲストの方の意見も含めて、ここに記載される内容は、 スクウェイブの公式見解とは必ずしも一致しないので予め御了承頂きたい。
  • その前提で、このコーナーは、記載者のホンネを記し、 タテマエとのギャップから何かしら読者の業務のヒントになることがあれば大変素晴らしいが、 むしろ私としては、ちょっとした気分転換になって頂ければ本望と考えている。
    是非肩肘を張らずに一杯のコーヒーを飲むついでにご覧頂きたい。
2004年5月20日 黒須 豊

第41回:ソフトバンク、孫正義氏の100億円寄付の顛末

掲載日: 2012年5月17日
執筆者: 株式会社スクウェイブ
代表取締役社長
黒須 豊
  • あの3.11の直後、ソフトバンクの孫正義氏が、声高らかに100億円寄付すると宣言した際、私はソフトバンクユーザー(当時iPhone使用)として彼に対して素直に尊敬の念を持った。気持ちはあっても、なかなか、寄付なんてできることではない。しかも、私財から100億円も。極めてスケールのでかい偉大な人物だとそう思った。

  • しかし、1か月、2か月と過ぎて、何故か「本当に寄付したのか?」との疑問の声が巷に流れるようになった。具体的に100億円もらったという自治体や団体が現れなかったからだ。マスコミ各社もこの件については、各種団体に取材し続けていた。だから、何処もそのような組織に行き当たらないから不思議だったのであろう。

  • 震災から2か月以上過ぎた2011年5月半ば、次の趣旨のニュースが流れた。
    「40億円はソフトバンクや被災自治体が6月上旬に設立する公益法人「東日本大震災復興支援財団(仮称)」に寄付し、残りを赤十字や各自治体など配布する」とするものだ。

    出典:http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20110516-OYT1T00871.htm

  • なんだか、やっぱり、まだ寄付していなかったとわかって、少しがっかりさせられたが、それよりも、これから、わざわざ自ら財団を創設して、そこに寄付するという点が腑に落ちなかった。100億円と言いながら、実際に4割相当は、自分の息のかかった組織が寄付先というわけだ。まあ、それでも、凄いことは凄い。寄付額はまだダントツなのだから。ただし、自分の中で、彼に対する尊敬の念が少しだけトーンダウンすることは否めなかった。

  • そして、今年の3月になって、ついに、彼は、自身のTwitterでFollowerに突かれる形で、寄付先を全て公開した。

    出典:http://www.softbank.co.jp/donations/?page=list.html

  • とあるFollowerの「被災地への100億円の寄付、どうなっていますか?」の問いかけに彼は、「黙して行うことも考えましたが、この度は有言実行に意義を感じました」としている。正直なところ、上記URLにあるリストを見て私は愕然としてしまった。彼は、個人として赤十字や福島県、宮城県、岩手県などに対して10億円ずつ寄付しているのだが、何といっても1つの組織として最大金額の寄付対象組織が、新規に創設された団体「東日本大震災復興支援財団」であり、かつこの組織の会長自身が孫正義氏なのである。

  • つまり、彼は100億円の中の40億円を自分がトップを務める組織に拠出した。しかも、幹事会社がソフトバンクであり、代表理事など要職を、元ソフトバンク関係者が占めている。これで、果たして100億円を寄付したと言えるのだろうか。もちろん、それでも、なお、残りの60億円だけでも、彼の寄付額はダントツである。また、40億円を受領した自らがトップを務める組織も、きっと東日本再生に力を注ぐであろうことは十分に期待できる。したがって、彼の寄付の功績自体を否定するつもりは毛頭ない。十分賞賛に値すると考えている。

  • しかしながら、仮に彼が、100億円寄付すると公言して、その直後に、県でも赤十字でも、何処でもいいから、実際に100億円拠出していたなら、自分の気持ちは、こんなにも微妙な心境に陥ることはなかっただろう。彼は、今回、「最初は黙して行うことを考えたが、有言実行に切り替えた」との趣旨を述べているが、この一言は実は最も避けるべき一言だ。本当に黙して実行しようと思ったのならば、最初から100億円寄付すると公言する必要は何処にもなかったのである。

  • 純粋に寄付しようという気持ちが元々彼にあったであろうことを否定するものではないが、同時に人気取りも狙って発言したのではないかと推察できる。だからこそ、いざ払うとなると、「自分が損しないように、諸々画策したいという色気を出したのではないか?」と疑問を持たれてもしかたないだろう。

  • 企業経営の視点から見て、今回の件は、直接企業利益に繋がりにくい部分で大金を拠出することになっただけでなく、結果的に、消費者の信頼を部分的に失う結果になったと思われる。卑近な実例として、私はJ-Phone時代からのソフトバンクユーザーであったが、別会社に切り替えることになった。

  • トップの発言は重い。企業経営者も自分の言葉によって、どれだけ社内外の関係者(顧客、社員、株主等)が影響を受けるか肝に銘じるべきであろう。ただし、孫氏は経営の天才だ。いつか、今回興ざめしたユーザーを再び振り向かせる鮮やかな戦略を発表してくることを期待したい。